東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)286号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
本願意匠が意匠に係る物品「サキソフオン」とし、その形態を別紙第一のとおりとすることは、当事者間に争いがなく、また、引用意匠は意匠に係る物品を本願意匠と同一のものとし、その形態を別紙第二のとおりとすることは、原告も認めて争わないところである。
そこで、別紙第一及び別紙第二に基づいて本願意匠と引用意匠を対比すると、両意匠は、その基本的構成態様において、上端に吹込管を、下端に朝顔状の開口部を有する円錐状の管体部を設け、右管体部の吹込管と開口部を除くほぼ全体にキー部を付設した点において共通し、かつその具体的構成態様において、吹込管を、本願意匠が背面側に緩かな「く」の字状に(直線状の管体に対し約二五度程度)屈曲して形成しているのに対し、引用意匠が真つ直ぐに形成している点において差異が認められるほか、その態様を共通にするものと認められる。
原告は、サキソフオンの使用者、購買者等が強い関心を払うのは、吹込管の形態にあるのにかかわらず、審決が吹込管以外の管体部を意匠の要部として把握したのは誤りである旨主張する。
本願意匠と引用意匠に共通する物品であるサキソフオンは、奏者が両手で把持して演奏する管楽器であつて、吹込管から朝顔管まで円錐管を成し、右管体にキー部を付設したものであるから、このような楽器に向けられる看者の関心は吹込管という特定部分に片奇ることなく楽器全体に及ぶというべきであり、両意匠の類否判断においては、意匠全体から看者に与える印象に差異があるかどうかを基準として判断すべきである。
したがつて、吹込管の形態のみを要部として把握すべきであるとする原告の前記主張は採用できない。
そして、両意匠は、前記認定のとおり、その基本的構成態様において共通し、かつ、具体的構成態様においても、吹込管を、本願意匠が背面側に緩かな「く」の字状に(直線状の管体に対し約二五度程度)屈曲して形成しているのに対し、引用意匠が真つ直ぐに形成している点に差異があるにすぎず、両意匠の差異点が吹込管という限られた部分であつて、本願意匠の吹込管の屈曲の程度も緩かなものであることを勘案すると、両意匠を全体として観察する場合この点を格別顕著な差異ということはできないから、この程度の差異では、右差異点が両意匠の共通点を超えて看者に別異の印象を与えるものとは認めることはできない。
原告は、本願意匠は、意匠に係る物品を「サキソフオン」とするものであるが、実際の商品としてはソプラノ・サキソフオンに実施されるものであり、ソプラノ・サキソフオンにおいてその吹込管に特定の屈曲を施したものであつて、本願意匠における吹込管の形状は新規なものであり、その曲がり具合も旧式クラリネツト、テナー・サキソフオン等とは異なるものである旨主張する。
しかしながら、本件出願は、意匠法第七条、同法施行規則第五条、別表第一(備考二)の各規定に基づき意匠に係る物品を「サキソフオン」として出願されたものであり、ソプラノ・サキソフオンに限定されたものではない(なお、サキソフオンには、ソプラノ・サキソフオンのほか、テナー・サキソフオン、アルト・サキソフオン、バリトン・サキソフオンなどがあり、ソプラノ・サキソフオンを除くこれらのサキソフオンはいずれも吹込管を背面側に屈曲させて形成していることは原告の認めて争わないところである。)から、ソプラノ・サキソフオンのみに実施されることを前提として、その吹込管の屈曲形状に新規性があるとする原告の主張はすべて理由がない。
したがつて、本願意匠と引用意匠とは類似する意匠というべきであるから、本願意匠は意匠法第三条第一項第三号に規定した意匠に該当するとした審決の判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当として棄却する。
〔編注1〕本件における特許庁における手続の経緯及び審決の理由の要点は左のとおりである。
一 原告は、昭和五三年二月二三日、意匠に係る物品を「サキソフオン」とする別紙第一記載の意匠(以下「本願意匠)という。)につき意匠登録出願(昭和五三年意匠登録願第六五九二号)をしたところ、昭和五五年一〇月二二日拒絶査定を受けたので、昭和五六年一月一九日審判を請求し、昭和五六年審判第一八三四号事件として審理された結果、昭和六三年一〇月二〇日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年一一月一六日原告に送達された。
二 審決の理由の要点
1 本願意匠は、意匠に係る物品を「サキソフオン」とし、形態を別紙第一に示すとおりとしたものである。
2 これに対して、原審において拒絶の理由として示した引用の意匠は、特許庁意匠課所蔵(受入昭和五二年一〇月七日)の内国カタログ「YAMAHA SAXOPHONES」(日本楽器製造株式会社)所載の品番YSS―61として示されたもの(以下「引用意匠」という。)であつて、写真版等の全体から意匠に係る物品を「サキソフオン」とし、形態を別紙第二に示すとおりとしたものである。
3 そこで両意匠を比較すると、両者は意匠に係る物品が一致し、形態については、本願意匠が吹込管を背面側に緩やかな、“く”の字状に屈曲して形成しているのに対し、引用意匠は真つ直ぐに形成している点に差異がみられるほかは、歌口(マウス・ピース)及び本体の態様がほとんど共通しているものと認められる。
そこで、この差異点が両意匠の類否判断に与える影響を審案するに、本願意匠が吹込管を緩やかな“く”の字状に屈曲した点は、従来より旧式クラリネツト等にみられる態様であり、同種のテナー・サキソフオンにおいても吹込管は背面側に屈曲しているのが普通であるから、この点が格別に新規であるとは認められず、また、屈曲の程度もさほど強いものではないから、両意匠を別異のものとするまでの顕著な差異とはいい難い。
これに反して、共通する点は物品全体におよび、形態の基調を形成するものであるから類否判断を左右する主要部と認められ、結局両意匠は全体として類似することを免れない。
したがつて、本願意匠は、意匠法第三条第一項三号に規定した意匠に該当し、意匠登録を受けることができない。
〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。
別紙第一
<省略>
<省略>
別紙第二
<省略>